ピアノには『隣りあう2つの鍵盤を1の指(親指)だけで同時に弾く』という独特の方法があります。
中級や上級の曲では、意外とよく使われるテクニックの一つです。はじめて知った方は「そんなやり方ってアリなの!?」と驚かれるようです。
今回の記事では
- 楽譜の指番号にはどう書かれている?
- どんなとき、どんな曲で使うの?
- テクニック上の注意点
について解説していきます。
ピアノ中級者以上ならば、ぜひ知っておきましょう。
楽譜の指番号の記載方法は?
楽譜の指番号でこのように書かれているときは、隣り合う2つの鍵盤を1の指で弾きます。
上の2つの楽譜↑では、どの音とどの音を1の指で同時に弾くのか分りやすく書かれていますが…
下の楽譜↓のように1の指の記載しかないものもあります。
【具体例】こんな曲で使っています
では、2つの鍵盤を1の指で押さえるテクニックを使うのはどんな場面か、曲の具体例で見てみましょう。
指が届かないとき(トロイメライ/シューマン)
シューマン作曲の「トロイメライ」には、2箇所このテクニックを使う場面があります(下にYouTube動画あり)。
まずは6小節目、右手で「ソララ」という1オクターブを超える9度の和音を弾く場面。
もしもソを1の指、ラを2の指使いで演奏しようとすると、ラとラのオクターブを2の指と5の指で広げて弾くことになります。通常の場合、鍵盤に指が届かないでしょう。
なので、ここは1の指でソとラの隣り合う2つの鍵盤を同時に弾きます。
弾きかたのポイントは、親指の腹を使って、2つの鍵盤を均等におさえる角度を作ることです。
トロイメライの終盤にも、右手で「ファソレラ」という10度の和音の箇所があります。
ここではファとソを1の指で押さえ、レとラはアルペジオにして(時間的にずらして)弾きます。
左手の「ソシシ」も10度です。こちらもアルペジオにするか、もしくはソシを同時に、シを時間的にあとで演奏する方法もありでしょう。
どちらにしても、『手が大きい人なら同時に弾くのだから、なるべく速く弾かなくちゃ!』と焦って乱暴な音になってしまうと、曲の雰囲気が壊れてしまします。
トロイメライ=夢という意味です。タイトル通り、ゆったり夢みるように演奏するほうが良いでしょう。
次のYouTube動画では、29秒あたりと2分27秒あたりに問題の箇所があります。
使用楽譜→ピアノ名曲110選グレードB
音楽的に必要な場合(小練習曲第14番/モシュコフスキー)
モシュコフスキーの「20の小練習曲」第14番にも、1の指でソとラを弾く場面があります。
このソとラとレ♯だけの和音だけで見ると「えっ?別にわざわざ1の指で2つの鍵盤を弾かなくても、ソラが1と2の指、レ♯が4でも良いでしょ?」と思われるかもしれません。
このレ♯を3にするのには、理由があります。前後の音楽的な流れで必要なのです。
上の声部をなめらかなスラーで演奏し、中声部のソとラの両方を付点4分音符の長さをキチンと伸ばすためには、レ♯は4ではなく3にした方が都合が良いのです。
使用楽譜→モシュコフスキー「20の小練習曲」
黒鍵で使うことも(練習曲Op.10-4/ショパン)
2つの鍵盤を1の指で押さえるテクニックは、白鍵の場合だけでなく隣り合う黒鍵でも使うことがあります。上級のテクニックです。
ショパンのエチュードOp.10-4では、ド♯とレ♯の2つの鍵盤を1の指で同時につかむ箇所があります。
シューマンのトロイメライと同じように、1と2の指を使ってしまっては9度の和音を同時に弾くのは難しいからです。
どちらもアリ(ゴリウォーグのケーク・ウォーク/ドビュッシー)
ドビュッシー作曲「ゴリウォーグのケーク・ウォーク」では、出版社によって指番号の指示が違います。
ヤマハの「クラシック名曲50選」やドレミ楽譜出版社のピアノ名曲110選グレードCの楽譜では、1の指でファとソの鍵盤を弾く指示があります(写真上)。
それに対して音楽之友社のドビュッシーピアノ曲集Iの楽譜では、2の指と3の指と使うことになっています(写真下)。
つまりどちらもアリ!なのですが、余裕があれば両方試してみましょう。
ふたつの指(2と3の指)を使う場合と、1の指のみを寝かせて指の腹を使って弾く場合ではタッチが違うため、音色が変わってきます。
可能であれば、『弾きやすさ』よりも『自分が欲しい音色』の指使いに決めることをおすすめします。
【中級以上におすすめ】の理由と注意点
1の指で2つの鍵盤を弾くこの奏法は『楽譜に指示がある時に限って使って良いテクニック』ではありません。指番号の指示がない場合でも使用可能です。
ただし、初級レベルから安易に使うことは避けてくださいね。
たとえば下の写真はブルグミュラー25の練習曲の「スティリエンヌ」ですが、ドとレはふつうに1の指と2の指で弾きましょう。
特別な事情がない限り、基本的なテクニックを身につけるのが先です。
1の指は他の指と比べて、指の長さも角度も違う独特の指です。2つの鍵盤を同時に押さえることで『指の腹を使う』のは、ふつうの指使いで安定した打鍵ができてからがおすすめです。
なので、このテクニックを使うかどうか?は、
- 1の指を安定した打鍵で弾ける中級者以上
- あえてこのテクニックを使う意味があるか?
を判断基準としてみてください。
まとめ
今回は、『2つの鍵盤を1つの指で弾く』という独特のテクニックについて、解説してみました。
とくに手が小さい人にとっては、1の指で2つの鍵盤を弾くことによって演奏できる曲が広がるでしょう。
中級以上のレベルであれば、これまでの経験から判断して自由に使って良いと思います。