音楽記号「スラー」と「タイ」。
どちらもカッコ →)を横向きにしたような弓なりの形をしています。記号だけ単独で見ると、スラーもタイも形はまったく同じです。
そのせいで「これってタイではなくてスラーなんですか?!見分け方がイマイチわからないのですが…」と生徒さんから質問されることがよくあるのです。
そこで今回の記事では、
- タイとスラーの書き方の基本
- 迷いやすいのは和音のタイ←ピアノ弾きにはココが最重要!
- 実際の楽譜で難易度別クイズ
と、初級レベルから上級レベルまで楽譜の具体例をみながら、間違いやすいポイントを中心に解説していきます。
【基礎】スラーとタイの見分け方
まずは楽譜「きらきらピアノおとなのピアノ名曲集シリーズ」より、タイとスラーについての解説を見てみましょう。

タイもスラーも弧をえがくような形で、記号そのものだけでは見分けはつきません。見分け方のポイントは記号そのものではなく、音のほうです。
タイは、まったく同じ高さの音を直接つないでいます。弾きなおさずに、そのまま鍵盤を押しっぱなしにします。
スラーは、複数の違う音をつないでいます。なめらかに演奏します。
つまり「同じ高さの音と音を直接むすんでいるのがタイ、それ以外はスラーです」
次からは、実際の楽譜を見て「スラーか?タイか?」を判断してみましょう。ピアノ弾きにとっては単音よりも和音のタイを間違いやすいので、和音の実例を多く出してみました。
クイズ【レベル1】「グリーンスリーヴス」より
轟千尋氏編曲の「グリーンスリーヴズ」の楽譜を見てみましょう。初級の楽譜ですが、ここにはスラーとタイの両方があり、間違いやすいです。
どれがスラーでどれがタイか、見分けがつくでしょうか?

使用楽譜→きらきらピアノ おとなのピアノ名曲集 ポピュラーメロディー レベルA
それでは、解答です。

右手の上の段にある弓なりの記号は、スラーです。弓なりのカーブ状の線が、複数の音をつないでいます。
最後の2小節はラとラでまったく同じ高さの同じ音ですが、ラとラを直接むすんでいる記号ではないので、タイではありません。
それに対して左手の下の段、ラとラをつなぐ下向きの弧と、ミとミをつないでいる上向きの弧は、どちらもタイです。
ラもミもそれぞれ、まったく同じ高さの同じ音を直接つないでいます。

つまり最後の小節は、右手のラだけ弾き直し、左手のラとミは伸ばしたままとなります。
クイズ【レベル2】ハイドン「主題と変奏」より
続いては、ハイドン「主題と変奏」の楽譜より。下の段、赤い線でなぞった下向きの弧はスラーでしょうか、それともタイでしょうか?

使用楽譜→プレ・インベンション
それでは、答えです。
これはスラーです。
下向きの弧を描く線は音と音を直接つないでいますが、ファとミで音の高さが違います。なのでスラーなのです。

実はここで間違いやすいのは、上の音のソとソをタイとして考えてしまって、音を伸ばしっぱなしにしてしまうこと(上の楽譜で、赤い線で囲ったソを弾きなおさないでそのまま1拍半伸ばしてしまう)。
先日のレッスンで、ある生徒さんが誤解して演奏していました。
上の音はソとソでまったく同じ高さの同じ音ですが、この音を直接つないでいるわけではありません。なので、ソは弾きなおす必要があるのです。
もしもソとソをタイにするのならば、下の楽譜で赤い線を書き加えたように、ソとソを直接つなぐ記号がもうひとつ必要となるのです↓

クイズ【レベル3】「涙そうそう」より
BEGIN(轟千尋編)「涙そうそう」の楽譜です。
ここにはスラーとタイの記号がまじっています。どれがスラーで、どれがタイかわかりますか?

使用楽譜→きらきらピアノ おとなのピアノ名曲集 ポピュラーメロディー レベルA
複雑そうに見える楽譜は、ひとつずつ分解して考えてみましょう。ポイントは「同じ高さの音と音を直接つないでいるのがタイ、それ以外はスラー」です。
それでは、答えです。

赤でなぞったのがスラー。スラーはぜんぶで3箇所あります。
最初のスラーは、右手から左手へとつながっています。見慣れないうちは、こうしたスラーは戸惑うかもしれませんね。
青でなぞったのがタイ。
青で囲った左手のファの音はタイなので、弾き直ししません。
クイズ【レベル4】ブラームス「間奏曲 作品118-2」より
大人に大人気の定番曲ブラームスの「間奏曲op.118-2」の楽譜から。
赤で囲った和音一番上の音(ド)は、弾き直しでしょうか?それともタイとして、伸ばしっぱなしでしょうか?

それでは、答えです。

この音は、弾き直しをします。
赤い線でなぞったのがスラー、青い線がタイです。問題のドの音は、前の音と直接つながれてはいません。上についているのは、長いスラーなのです。
まとめ
今回は、スラーとタイの違い、見分け方について楽譜で例を見てきました。
楽典の本に出てくる例は、スラーもタイも単音の解説がほとんどです。でも、ピアノ弾きにとって間違えやすいのは、和音の中に混在しているスラーとタイの区別です。
そして、初級レベルの曲の和音にもスラーとタイはたくさん出てくるのです。
また、最後のクイズのブラームスを弾くようなレベルの人は、スラーとタイについての基本はもちろん理解している場合がほとんどでしょう。
それでも譜面が複雑になってくると、うっかり見落とししてしまうこともあります。
ここにあげたのは一例です。迷うところがありましたら、そのつどレッスンで質問してくださいね。少しずつ慣れていきましょう。