初心者から上級者まで、ピアノの指使いに悩まれている方は多いです。
今回はベートーヴェンの「エリーゼのために」の冒頭部分♬ミレミレミシレドラを例に、
- 楽譜に書いてある指使いは『絶対』変えてはいけないの?
- 出版社によって運指が違うことがある!?
- 自分に合った指使いの決め方のコツ
について、私なりの考えを書いてみます。
「エリーゼのために」指使いを8冊の楽譜で比較、結果は?
こどもの頃のレッスンで「好き勝手な指使いで弾いてはダメ!楽譜の指番号を守って」とピアノの先生に注意された経験を持つ方も、いらっしゃるかもしれません。ところが、楽譜によっては運指が違うことは、まぁまぁよくあることです(^_^;)
「エリーゼのために」の有名な「♬ミレミレミシレドラ」の最初のミの運指は、「3の指」「4の指」「5の指」と楽譜によって、なんと3種類もあります!
自宅レッスン室には「エリーゼのために」が収録されている楽譜が8冊見つかりました。(探せば、ほかにも見つかる可能性がありますが、とりあえず…)
↑写真の左手前から、音楽之友社『ONTOMO ピアノピースファイル1 エリーゼのために』 ドレミ楽譜出版社『ピアノ名曲110選A』 ドレミ楽譜出版社『おとなのためのピアノ小品集 バイエルからツェルニー30番併用』 ドレミ楽譜出版社『おとなのための中級ピアノ曲集〜バロックから近代まで』。
写真の奥は、ヤマハ『クラシック名曲50選』(左の青、赤の2冊)、ヤマハ『ピアノで弾く名曲50選』新版、旧版。4冊ともヤマハのピアノ、電子ピアノ、キーボードを購入した時に付いてくる非売品の楽譜です。(もともと生徒さんで持っている方が多かったので、ヤフオクとメルカリで手に入れました)
合計8冊の楽譜で「エリーゼのために」の最初のミの音の指番号を比較した結果は、
- 3の指から→『ONTOMOピアノピース・ファイル1』
- 4の指から→『ピアノ名曲110選A』 『おとなのためのピアノ小曲集』
- 5の指から→『おとなのためのピアノ中級ピアノ曲集』『クラシック名曲50選』『ピアノで弾く名曲50選』
となりました。
ここで不思議なのは、同じドレミ楽譜出版社でも『ピアノ名曲110選A』と『おとなのためのピアノ小曲集』では4の指で、『おとなのためのピアノ中級曲集』では5の指なこと。楽譜の編集や校訂を担当した人の考えや好みが違ったのでしょうね。
ここで「じゃ、多数決で5の指が良いってことだ!」と簡単に決めてしまうのは早すぎます!どの指にもそれぞれの指を選んだ場合のメリット、デメリットがあります。それを解説していきます。
最初のミに「3の指」を使う場合
まずは、3の指の場合です。
メリット
冒頭の「ミレミレミ」を3の指(中指)と2の指(人さし指)という、もっとも動かしやすい2つの指の組み合わせで弾けることです。
「ミレミレミ」は、白鍵と黒鍵が交互に出てきます。高さの違う鍵盤で、しかもppピアニッシモ(とても小さく)、なめらかなレガートを作るのは簡単ではありません。緊張感のある曲の出だしも、コントロールしやすい指を使うことで安心して弾き始めることができます。
デメリット
楽譜をもう一度みていくと、「ミレミレミシレドラ」の途中の「シレ」には、1と3の運指の指示があります。レのナチュラル(白鍵)では、冒頭のミを弾いた3の指のポジションを、レに移動させる必要があるのです。初心者にとっては、指を引き寄せる動きのせいで音を外したり、音と指の関係を混乱して間違いやすいのがデメリット。
最初のミに「4の指」を使う場合
次は、4の指の場合です。上級者向きの指使いになります。
メリット
「上級者向き」と書きましたが、この説明はちょっと抽象的で分かりにくいかもしれませんm(_ _)m
4の指(薬指)は弱い指です。それは上級者も同じこと。どんなに鍛えていたとしても、ほかの指と比較すると繊細です。それこそが、この指使いのねらいです。
4の指を使うことで、繊細な音色を出すことができます。3の指の弾きやすさは、ノーテンキな音色になってしまったり、演奏の安易さにつながることがあります。
『ほかの指でも演奏可能なのに、わざわざ4の指にする』ケースは、ほかの曲にも見られます。音色で繊細さを表現したい場合が多いです。
デメリット
デメリットは、メリットの裏返しになります。「ミレミレミ」を繊細な4の指と3の指の組み合わせで弾くことは、難易度が高いです。
ある程度のテクニックを持つ人のみチャレンジ可能な上級コースです。
最初のミに「5の指」を使う場合
最後に5の指の場合です。順番が最後になってしまいましたが、これが一番初心者向きでスタンダードな指使いでしょう。
メリット
「ミレミレミシレドラ」までポジションを変えずに、そのまま弾けることがメリットです。
ピアノ初心者にとっては、指ごとに音が決まっているのは安心感があります。ラシドレミ→単純に1、2、3、4、5の指というイメージですね。
デメリット
白鍵と黒鍵の交互で弾きにくい「ミレミレミ」を、独立して動かすのが難しい5の指(小指)と4の指(薬指)で演奏することになるのがデメリット。音が転んでしまう可能性があります。
そうは言っても、『短いフレーズの中でポジションを変える』負担が大きい初心者さんにとっては、メリットのほうが大きいはずです。
【まとめ】で、あなたはどの指使いを選ぶの?
今回は「エリーゼのために」の最初のミの指使いの3つの候補と、それぞれを選んだ場合のメリット・デメリットを解説していきました。
- 楽譜の編集者、校訂者の考えによって指使いは何種類も。メリットもあればデメリットもある
- たまたま目にした一つの楽譜の指使いが『絶対』ではない
- 弾く人の嗜好や演奏レベルによって、ベストの指使いは違う
ということを考慮しつつ、自分に合った指使いを決めてみましょう。数年後に実力が上がったり、心境に変化があったならば、そのときに指使いが変わるのも良いでしょう。
ただし「気まぐれに、毎回てきと〜に、いろんな指使いをする」のは、本番で弾くときに身体と頭が混乱するので事故の元です。ご注意を!