バッハ作曲「主よ、人の望みの喜びよ」はパッヘルベルの「カノン」と並んで、大人の生徒さんに人気の曲目です。
卒業式、結婚式、映画、CMなど、さまざまな場面で聞くことがあるでしょう。
「エヴァンゲリオン」でも使われていると聞いて調べてみたのですが…シリーズが複雑すぎてよく分かりませんでした(^◇^;)そのうち観てみます!
ピアノアレンジの楽譜が多く出版されている中で、演奏効果の高い楽譜を選んでみました。
難易度がやさしい順に6つ紹介します。楽譜選びの参考にどうぞ。
「主よ」の読み方、誤解していない?
まず最初に曲名の話から。
冒頭の「ソラシレドドミレ/レソファ♯ソレシソラシ〜」のメロディはとても有名ですが、実は曲名を正確に覚えていなかったり、読み方を誤解している人も多いようです。
「主よ、人の望みの喜びよ」は「しゅよ、ひとののぞみのよろこびよ」と読みます。
「主よ」を「あるじ」や「ぬし」と読んでしまっている人を見かけることがあります。
原題”Jesu, Joy of Man’s Desiring”を日本語に訳したため、ふだん使わないような曲名になってしまったのでしょう。
ちょっと長いですし、覚えにくいタイトルですよね…
主(しゅ)は、賛美歌のタイトルや歌詞にもよく出てくる言葉で、イエス・キリストのことです。
ブライダルの仕事でも、演奏する機会が多い曲です。仕事では略して「主よ人」(しゅよひと)ということが多いですね。
現在では「主よ、人の望みの喜びよ」は宗教的な意味とは別に、美しいメロディが癒しの音楽として使われる場面もあります。
「主よ、人の望みの喜びよ」の演奏難易度は?
原曲「主よ、人の望みの喜びよ」は、オーケストラと合唱による教会カンタータです。
もともと多くの奏者によって演奏する曲を、ピアノひとりで演奏することになります。そのため、オリジナルに近い編曲ほど演奏難易度が上がります。
バッハの「インベンションとシンフォニア」の経験があれば、演奏の助けになるでしょう。
曲の難易度は厳密なものではなく、6つの編曲の相対的な比較で書きました。【上級】アレンジとして出版されている楽譜でも、今回は【中上級】として紹介したものもあります。
以前のブログ記事でパッヘルベルの「カノン」を取り上げました。「主よ人」の難易度も、考え方は同じです。
完全初心者向きにやさしいハ長調に移調した【入門】レベルのアレンジは、今回は取り上げていません。すべて原曲のト長調です。
というわけで、紹介している楽譜は【初級】レベルでもピアノを始めたばかりの初心者ではなく、それなりの経験者向けのアレンジとなっています。
【初級】珠玉の名曲ピアノ・ピースより「初中級」
最初に紹介したいのは、橋本晃一氏の編曲による「珠玉の名曲ピアノ・ピース」シリーズの【初中級】アレンジ。
ほかの編曲とのバランスで、ここでは【初級】としてみました。中間部を省略したシンプルな編曲です。
初心者向けにペダルなし、繰り返し省略で演奏しています。
使用楽譜→珠玉の名曲ピアノ・ピース「主よ、人の望みの喜びよ」
初〜中級/上級/連弾の3つの楽譜がセットになっている、ピアノ・ピースです。
同じ楽譜に収録されている上級アレンジも、4番目に紹介しています。
【初中級1】おとなのためのピアノ小曲集〜バイエルからツェルニー30番併用より
2番目に紹介するのは、「おとなのためのピアノ小曲集」と「おとなのためのピアノ曲集クラシック編2」のアレンジです。
どちらも橋本晃一氏の編曲で、どちらもまったく同じアレンジとなっています。
中間部は省略されていて曲の長さは短めながら、バッハのポリフォニーの雰囲気を感じられて、おすすめです。
最初のアレンジと比べて難しいのは、左手で独立した2声部を担当する部分があるからです。
合唱のメロディ「シード/レーシ/ラシドシーラー/ソー」(YouTube動画は55秒ごろから)の同時に弾く2つの音(ソとシ)は均等ではなく、テヌートが付いている内声が明確に聞こえるように演奏しましょう。
内声にスポットライトが当たっているようなイメージを持つと、良いですね。
使用楽譜→大人のためのピアノ小曲集〜バイエルからツェルニー30番併用
使用楽譜→おとなのためのピアノ曲集クラシック編2
【初中級2】ヤマハ クラシック名曲50選より
3番目に紹介するのはヤマハ「クラシック名曲50選」収録の「主よ、人の望みの喜びよ」です。初中級程度の難易度になります。
短調で雰囲気が変わる中間部が入っているアレンジです。
左手の内声が主役になるポリフォニーのテクニックは必要ありませんが、1拍を3分割するリズムと2分割するリズムが連続して出てきます。
こうしたリズムや拍の取り方に慣れていない方は、苦労するかもしれません。
使用楽譜→ヤマハ クラシック名曲50選
「クラシック名曲50選」はヤマハの電子ピアノを購入すると付属で付いてくる楽譜です。もともとが非売品なので、Amazonで扱っていることもあれば、ないこともあるようですm(_ _)m
【中上級】珠玉の名曲ピアノ・ピースより「上級」
4番目は、最初に取り上げた珠玉の名曲ピアノ・ピース収録の【上級】アレンジです。
楽譜上では【上級】となっていますが、今回は【中上級】にしました。もっと難しいアレンジも紹介しますので…
珠玉のピアノ・ピース「パッヘルベルのカノン」の上級をチャレンジされた方は、同じくらいの難易度と考えて良いでしょう。
楽譜の解説にはこのように書かれています↓
イギリスの女流ピアニスト、マイラ・ヘス Myra Hess(1890〜1965)によるピアノ独奏版が有名ですが、ここではそれよりも音の数を少なくし、手の大きくない人でも弾きやすい編曲になっています。
珠玉のピアノ・ピース 主よ、人の望みの喜びよ 解説より
「ヘス版を演奏することに憧れがあるけれど今すぐ弾くには難しいかな…」という方は、このアレンジからチャレンジすると良いでしょう。
(マイラ・ヘス版は、次に紹介します)
使用楽譜→珠玉の名曲ピアノ・ピース「主よ、人の望みの喜びよ」
【上級1】マイラ・ヘス編曲版
5番目は、マイラ・ヘス編曲。
プロのピアニストが「主よ、人の望みの喜びよ」を演奏するとき、ヘス版がもっとも人気です。
生徒さんが「フジコ・ヘミングさんの演奏を聴いて、この曲が弾きたくなりました」とお話されたことがありますが、彼女の演奏もマイラ・ヘス版ですね。
ヘス版はそのうち自分でも演奏してみたいと思いつつ、まだチャレンジしていないのでYouTube動画はナシですm(_ _)m
J.S.バッハ 主よ、人の望みの喜びよ: ピアノ独奏、連弾、2台のピアノ(全音)は、ピアノソロ・連弾・2台ピアノの3つの楽譜が収録されています。
ピアノソロ版のみ欲しい場合はピアノピースを手に入れても良いですし、この編曲が載っている名曲集で他の曲と一緒に楽しむのも良いでしょう。
【上級2】ヴィルヘルム・ケンプ編曲版
最後、6番目はヴィルヘルム・ケンプ編曲版です。ヘス版以上に難しいアレンジです。
ヘス版にもオクターブを超える和音がありますが、ケンプ版にはなおさら多く登場します。
手が小さい人が演奏する場合、指が届かない箇所はアルペジオとして音をばらして(時間的にズラして)弾くか、音を省略するしかありません。
少なくとも私の手の大きさでは、届かない和音が多すぎます。音をばらして弾いても省略して弾いても、曲の雰囲気を損なってしまいそうです( ; ; )
そうした理由で、今後もチャレンジすることはなさそうです…
ヘスは女流ピアニスト、ケンプは男性でピアニストだけでなくオルガニストとしても活躍しました。
ケンプは、パイプオルガンの足鍵盤やストップ(音色を重ねることができる)を使うイメージで編曲したのかも?と感じます。
難易度とは別に、ヘス版とケンプ版では音楽的な好みが分かれるところでしょう。
たとえば曲の冒頭は、ヘス版がPで、ケンプ版はmFで始まります。
曲の最後も、神への静かな祈りを思わせるppのヘス版に対して、人生の喜びを歌い上げるかのようなケンプ版はFで終わります。
まとめると、ヘス版とケンプ版の大きな違いは次の2つです。
- ケンプ版の方が、より和音の厚みと音程の広さがあり手の大きい人向き
- ケンプ版の方が、音量の指示が強めで装飾も多い→派手
↑全音の楽譜には「主よ、人の望みの喜びよ」だけではなく「シチリアーノ」「目を覚ませと呼ぶ声が聞こえ」など、ケンプによる編曲が全10曲収録されています。