ギロック作曲の「叙情小曲集」は、美しい響きを楽しめるピアノ小品集です。
ブルグミュラー「25の練習曲」と同じようにピアノ学習者向けの教本であり、より進んだテクニックが必要とされます。現代的でありながら、ロマン派の美しさも味わうことができます。
すべての長調と短調である24の調性で作曲されていることも、この小品集の特徴のひとつです。
今回は、このギロック「叙情小曲集」の難易度やおすすめの理由について解説していきます。
ギロック「抒情小曲集」の難易度は?
全音の【難易度別教本・曲目一覧】によると、「ギロック叙情小曲集」は初級・第2課程と中級・第3課程のどちらにも記載されています。
曲によって難易度に差があり、全体としては初中級程度でしょう。

ピアノ教本の定番「ブルグミュラー25の練習曲」と比べると、譜読み・テクニック・音楽的な表現のすべてに高いレベルが必要となります。
「ブルグミュラー25の練習曲」修了後すぐに取り組むと、難しく感じるかもしれません。
曲順は難易度順ではなく、ハ長調→ハ短調、ト長調→ト短調、ニ長調→ニ短調というように同主調(主音が同じ長調→短調)で並んでいます。
難易度的に最初にチャレンジしやすいのは、3曲目の「十月の朝」でしょう(のちほど動画で紹介します)。
ギロック叙情小曲集の特徴4つ
ギロック叙情小曲集には、こんな特徴があります。
ギロックはアメリカの作曲家→英語
ギロックは1917年生まれ、1993年没のアメリカの作曲家です。

クラシック曲の場合、楽譜に使われる音楽用語はイタリア語が圧倒的に多いのですが、ギロックの楽譜には曲名だけでなく、音楽的な指示も英語の割合が多いのが特徴です。

たとえば「人魚の歌」の最初の小節には、英語でsingingと書いてあります。イタリア語の音楽用語では、ふつうcantabile(カンタービレ→「歌うように」の意味)と書かれているでしょう。
イタリア語より英語のほうが理解しやすくてうれしい(^_^)という方もいるかもしれませんね。
ただし、すべてが英語というわけではなく、よく使われるイタリア語の音楽用語も使われています。
24の調性で作曲された全24曲
全24曲は、すべて違った調子によって作られています。
下の楽譜↓は「森のざわめき」(ハ長調)と「音もなく降る雪」(変ホ短調)

同じように24の全調で作曲されたピアノ曲集は、ショパンの24の前奏曲、バッハの平均律クラヴィーア曲集があります。
「叙情小曲集」というタイトルは、英語の原語ではLyric Preludes in Romantic Styleです。そのまま訳すと「ロマンティックな形式で書かれたプレリュード(前奏曲)」。
好奇心をそそる曲名・ロマンティックな曲想
24曲すべてに曲名が付いています。
「色あせた手紙」「荒れ果てた舞踏室」「魔女の猫」など、好奇心をそそられるような個性的なものや、「十月の朝」「夏のあらし」「音もなく降る雪」など、季節感のあるタイトルも。
具体的な曲名があると曲の情景を想像しやすくなるので、音楽的な演奏をするのに役に立つでしょう。
大人が素敵と感じるような、ロマンティックな曲想が多いです。
古い版と新しい版、さまざまな違い
ギロック自身による1991年改訂版の楽譜が出ています。
私がこどもの頃に使っていた古い楽譜とは、テンポやペダルに指示など、細かい点が変更されています。

「海の風景」の楽譜の比較↑上が古い版、下が1991年改訂版
「叙情小曲集」は、さまざまなピアニストが演奏しています。「この人はどちらの版を使って弾いているのかな?」と思いながら聴いて見るのも、興味深いでしょう。
これからの季節におすすめの曲は?
季節感のある曲目が多いというのも、ギロックの曲の特徴です。秋のおすすめ曲を3曲、動画で紹介します。
十月の朝(ト長調)
3曲目に収録されているのは「十月の朝」です。
わずか10小節と、とても短い曲です。同じようなメロディが繰り返されながら微妙に変化していきます。さややかな気分を表現したいですね。
叙情小曲集の中で1番やさしいは、この曲でしょう。
秋のスケッチ(ロ短調)
落ち葉のなかを散歩しているような雰囲気の「秋のスケッチ」。
もの思いにふける秋の寂しさを感じさせます。現代的なドラマのBGMにも合いそう。
とくに大人におすすめしたい一曲です。
魔女の猫(ヘ短調)
全24曲の最後に収録されている曲「魔女の猫」。気まぐれな猫のトリッキーな動きを想像させる、楽しい曲です。
やっぱり魔女の猫と言ったら黒猫でしょうか?ハロウィンのイメージで弾いてみるのも面白いかも?(=^x^=)
演奏は、古い版のペダルを採用してみました。
ギロック「叙情小曲集」全24曲
収録順に全曲を紹介します。
青字になっている曲目のリンクをクリックするとYouTube動画にとびます。楽譜の収録順に連続再生したい場合は、この章の最後の再生リストをご利用ください。
森のざわめき(ハ長調)
海の風景(ハ短調)
十月の朝(ト長調)
荒れ果てた舞踏室(ト短調)
伝説(ニ長調)
間奏曲(ニ短調)
人魚の歌(イ長調)
夏のあらし(イ短調)
色あせた手紙(ホ長調)
とんぼ(ホ短調)
月の光(ロ長調)
秋のスケッチ(ロ短調)
中国人の行列(変ト長調)
冬の風景(嬰ヘ短調)
セレナード(変ニ長調)
はちどり(嬰ハ短調)
ダイアナの泉(変イ長調)
まぼろしの騎士(嬰ト短調)
飛しょう(変ホ長調)
音もなく降る雪(変ホ短調)
夜想曲(変ロ長調)
夜の旅行(変ロ短調)
なつかしいバレンタイン(ヘ長調)
魔女の猫(ヘ長調)
再生リストはこちら↓
【おまけ】ほかに全調を勉強できる教本
初級〜初中級のピアノ学習者は、「シャープやフラットがたくさんある曲は難しい(>_<)」と、はじめから調子記号が多い曲を避けてしまいがちです。
かたよりなくすべての調性を勉強できる、やさしめのピアノ教本を紹介します。
グルリット「24の調による練習曲」Op.201
グルリット作曲「24の調による練習曲」も、すべての長調と短調による24の練習曲集です。
練習曲と言っても、単調な指の練習曲ではありません。「高貴なワルツ」「エレジー」など表情豊かな曲ばかり。
ギロック「叙情小曲集」はレベル的にまだ難しいけれど、全調を勉強できる曲集を探している人におすすめです。
グルリットには「24の旋律的練習曲」Op.131という、とてもよく似たタイトルの練習曲集がありますが、今回おすすめしたいのは「24の調による練習曲」Op.201のほうです。
バーナムピアノテクニック「全調の練習」
短い練習曲でさまざまなテクニックを学べる、バーナムピアノテクニックシリーズの番外編であるバーナム全調の練習。
基本となる音階から学習できます。
おすすめの理由を詳しく解説したブログ記事は、こちら↓