中級の生徒さんに絶賛おすすめ中の練習曲があります。モシュコフスキーの『20の小練習曲Op.91』です。コスパ・タイパの良い練習曲です。
今回は
- おすすめの理由、ツェルニー練習曲との比較
- 曲の難易度、練習のおすすめの順番
- YouTube演奏動画と練習のヒント
- 楽譜の音の違い(ミスプリかも?)
などについて書いていきます。
動画を更新したり何か気がつくことがあるたび、この記事も加筆、更新していく予定です。
ツェルニーとモシュコフスキーの練習曲の比較
まずはモシュコフスキーの「20の小練習曲」がおすすめの理由を、ツェルニーの練習曲との比較から解説します。
ツェルニー(チェルニーと書かれることもあります)は、1791年生まれ1857年没の作曲家。ベートーヴェンの弟子であったことは有名な話です。
そのため、ツェルニーの練習曲はベートーヴェンの時代の曲に必要なテクニックが中心となっています。
古くからのピアノ練習曲の定番ルートは、ツェルニー100番→ツェルニー30番→ツェルニー40番→ツェルニー50番→ツェルニー60番。
ツェルニーの練習曲集は、ハイドンやベートーヴェンのソナタを演奏する際に実用的で役立つでしょう。しかし曲数も多く1曲の長さもあり、コンプリートするには時間がかかります。
そのうえ、ツェルニーはロマン派以降の曲を弾くためのテクニックには対応していないのです。
苦労して練習した先にショパンの難曲が弾けるようになるの?と言うと、それはルートが違うような…(^_^;)
また、ツェルニーの練習曲を人前で演奏する機会は、音楽学校の試験以外ではほとんど無いはずです。演奏会で弾くにはあまり向かない「あくまで練習用の曲」です。
一方、モシュコフスキーは1854年生まれ1925年没。ツェルニーよりも半世紀以上あとの時代の作曲家です。
モシュコフスキーの練習曲には、ロマン派以降に必要とされたテクニックが満載です。
ロマンチックなメロディに美しい和声の変化、多声部(ポリフォニー)の絡みや独特のアルペジオ。
中級から上級の大人の生徒さんに人気の作曲家としては、ショパンやリスト、ドビュッシーやラフマニノフの名前がよくあがります。
モシュコフスキーはこれらの作曲家と時代も重なっており、大人のピアノあこがれ曲を演奏するための導入として効果的な練習曲となっているのです。
また響きも美しいため、人前で演奏するのも良い練習曲と言えるでしょう。
『モシュコフスキー20の小練習曲』の難易度は?
全音楽譜出版社の難易度別教本・曲集一覧によるとモシュコフスキー20の小練習曲Op.91は『中級・第4課程』です。
ツェルニー40番と同じくらいの難易度ということになっています。
アルフォンス・ルデュック版の巻頭には
音楽的に優れているので特におすすめしたい練習曲です。程度はツェルニー30番〜40番、ツェルニーの練習に飽きた時、このような少し傾向の変ったきれいな音の練習曲を勉強すると良いと思います
アルフォンス・ルデュック版
と安川加寿子氏の推薦の言葉が添えられています↓↓↓
さて、私の実感としては『20の小練習曲を弾くにはツェルニー30番修了程度の実力は必要』と感じています。
ただし、ツェルニーとの比較は絶対的なものではないでしょう。
ツェルニー40番以上の経験があってもロマン派の音楽の展開に不慣れであれば、モシュコフスキーの譜読みに戸惑う場合がよくあります。
譜読みがシンプルなツェルニーと比べて、モシュコフスキーはわかりにくく複雑と感じるかもしれません。その複雑さが曲の美しさにつながるのですが。。。
難易度を考えると第2番→第3番→第1番の曲順がおすすめ
おそらくモシュコフスキーとしては、第1番から難易度順に少しづづレベルアップしていくように作曲したものと想像しますが、
生徒さんには第1番からではなく、まず最初は第2番からで次に第3番→第1番→第4番→第5番の曲順のチャレンジをおすすめすることが多いです。
第2番はおもに右手のテクニックの練習であり、逆に第3番にはおもに左手のテクニックの練習です。
それに対して第1番は両手ともに活発な動きがあり、譜読みも指使いも難しく感じる場合がよくあります。
モシュコフスキーの曲を演奏するのが初めてであれば、この順番の方がスムーズに慣れていくことができるでしょう。
第8番と第10番は多声を歌いわける練習です。とくに中声部の動きを音楽的にたどっていくのが大事になります。テンポの速さはまったく必要ありません。
この2つの曲は少しづつモシュコフスキーの音に慣れてきたころに、順番にかかわらず気分転換にやってみても良いですね。
写真右の楽譜、全音楽譜出版社モシュコフスキー『20の小練習曲』は、全20曲が1冊にまとめられて出版されています。
それに対して写真左の楽譜、ルデュック版は1〜10番が第1編、11〜20番が第2編と楽譜が2冊に分かれています。
本来モシュコフスキーは1〜10番がCAHIER Iで、11〜20番がCAHIER IIとしていたようです(CAHIER はフランス語でノートの意味)。
第2編が始まる第11番からは曲の長さが少々長くなり、曲の難しさが一段増します。
ここまで10曲を続けてきたならば実力が上がってきているでしょうし、独特の音の譜読みにも慣れてきているはずです。
ここから先は順番通りに練習していくのも良いですし、好みや気分によって(ほかの曲で短調をやっているところだから、モシュコフスキー練習曲は明るい曲をやってみよう、など)順序を変えてみるのもアリでしょう。
YouTube演奏動画
第1番
第1番練習のヒント
和音にしてみると、動きの規則性が見えてきます。右手と左手が順行しているのか?反行しているのか?それぞれの音程の違いも意識すると、弾きやすくなるでしょう。
第2番
第2番練習のヒント
右手の早い動きばかりに気を取られそうですが、慣れてきたら左手の和声の変化に注目するのがおすすめです。まずは「明るい和音」「暗い和音」を発見して違いを表現してみましょう。
第11番
第11番練習のヒント
指先だけでなく手首を柔軟に動かすと音をつかみやすくなります。ノン・レガートとレガートの違いを表現するのが難しい曲です。ノン・レガートはスタッカートではないので「パラパラ」と明確な粒を意識して、レガートはペダルを適宜使いながら滑らかなイメージで。最後近くの両手の交差は早めに用意を。
第15番
第15番練習のヒント
むやみに速く演奏しようとすると♬「ミソシミー、ソシミソー、シミソシー」と4つ区切りで音がダマダマになりがちなので、ご注意を。第11番と同じように、手首の柔軟さを意識しながら練習すると良いでしょう。
出版社による音の違い、ミスプリ?
第5番
11小節の右手4拍目は、ルデュック版と全音版では音に違いがあります。
写真上がルデュック版、写真下が全音版。シの音がナチュラルなのかフラットなのか?の相違です。
おそらくここはルデュック版が正しいのではないか?と考えて、自分で鉛筆でフラットをナチュラルと書き換えています。なぜかと言うと、もともと調号でフラットがシとミについているのに、わざわざ重ねてフラットを書く意味が不明だからです。
15小節にも同じ和音が1オクターブ下で現れますが、ここは2つの版ともナチュラルです。
11小節と15小節で音をわざと変える意図があり、11小節にはフラットを書いたという説も成り立つかもしれませんが、それは自分としてはしっくりきません。
第14番
最後から3小節目の左手最初の和音は、全音版では8分音符となっていますが、ペトルッチ楽譜ライブラリーでは16分音符です。
その後の流れをみると、ここだけを8分音符の長さにする意味はないように感じます。16分音符のほうが自然でしょう。
第15番
A→B→A→Bの単純な形式の曲ですが、1回目のB部分と2回目のB部分では左手の音が一音だけ違います。
1回目はFで、2回目はEsです。
あまりにも微妙な差なので、モシュコフスキーがあえてニュアンスを変えたのか、それとも単純な音の取り違いが発生したのか?(ミスプリなのか?)迷うところです…
ペトルッチも確認したところ、全音と同じ(1回目はF、2回目はEs)です。なので、YouTubeでは楽譜通りに演奏しました。
その他にも疑問点があるけれど…
『20の小練習曲』には音に関する疑問点が他にもいろいろあるのですが…
現在の日本国内で手に入れやすいモシュコフスキー『20の練習曲』の楽譜は、全音版のみです。
ルデュック版は、たまたま第1編のみネット上で見つけました。ペトルッチで見られる楽譜は、おそらくルディック版だと思われます。
ほかの版が手に入る機会があれば、比較&確認してみたいものです。
『コスパ・タイパが良い』の意味
モシュコフスキー『20の小練習曲』の曲の紹介とおすすめをしてきましたが、歴史的には同じモシュコフスキーの、より高難易度で華やかな『15の練習曲』の方が人気がありました。
『15の練習曲』は全音版だけでなく、音楽之友社の楽譜も手に入りやすいです。
コンサートで演奏される機会もありますし(とくにホロヴィッツもお気に入りのOp.72-6 F durが有名)、こちらも素晴らしく魅力的な練習曲集ですね。
一方『20の小練習曲』は、最近になって取り上げられる機会が増えてきたようです。
もともとは『15の練習曲』はまだ難しすぎる生徒さんのレッスンに…と自分でも弾きはじめた『20の練習曲』ですが、とてもお得な練習曲だなぁと感じています。
曲が美しいので飽きない
レパートリーとして人前で弾いても良い、すてきな小品
曲が短めなので(1〜3ページ程度)練習時間の負担になりにくい
難しすぎない、実用的なテクニックが満載
私は仕事でアンサンブルやオペレッタの稽古ピアニストなどをしていますが、モシュコフスキー『20の小練習曲』を表情豊かに演奏できれば、仕事を続けていくための実力として十分と感じています。
「練習曲だから」と指の運動だけを目的に機械的に弾くのではなく、ロマン派の表現を身につける目的で練習するのであれば、中級者だけでなく上級者にとっても得るものが大きいでしょう。
「20の小練習曲」を終えたら、次は?
生徒さんにおすすめしてきた「モシュコフスキー 20の小練習曲」。
この20曲をすべて終えたあとに次に使う練習曲は、生徒さんの個性によって「モシュコフスキー15の練習曲」や「ツェルニー8小節の練習曲」をおすすめしてきました。
実は「15の練習曲」は「20の小練習曲」と比べて難易度がガクンと上がります。
そのため「20の小練習曲」を余裕を持って修了できた場合以外は、苦労することが多いようです(>_<)
どうするのが良いかなぁ…と調べているうちに「モシュコフスキー16の技術練習曲」の存在を知りました。
全音楽譜出版社の難易度別教本・曲集一覧によるとモシュコフスキー16の技術練習曲Op.97は『上級・第5課程』で、モシュコフスキー15の練習曲Op.72の同じカテゴリーの難易度とされていますが…
テクニックの難易度としては
- 20の小練習曲<16の技術練習曲<15の練習曲
という順番になるようです。
ちなみに、自分が15の練習曲を使っていた学生時代(1990年代ごろ)当時は、16の技術練習曲は全音から出版されていませんでした↓
「16の技術練習曲」の特徴などを把握するため、いま自分で練習中です。
こちらも、そのうち記事を書くかも??